麻雀社員 一通貫多(画・宮本ひかる+作・志村裕次、昭和53年)

麻雀社員 一通貫多

あらすじ

持ち前の押しの強さと根性で、麻雀業界にのしあがる男――その名は麻雀社員・一通貫多。
度胸がよくて女にもてるアイデアマン、それでいてどこか憎めない――爽快な男の生きざまをユーモアを交えて描く異色麻雀劇画の決定版。

(単行本カバーより引用)

びっくりするほどユートピア (10点満点で☆)

徹頭徹尾くだらない。ツッコミを入れる手が途中で萎えるようなくだらなさだ。北山茂樹の『麻雀三銃士』のような、途中で本を床に叩きつけたくなる類ではなく、「この展開はどうにもならないんだろうな、あ〜、やっぱりどうにもならないんだ」という脱力系のくだらなさだ。まだ言い足りない。
全自動卓メーカー・クリヌマ*1に入社した主人公が、そのマッコウクジラ並のイチモツと度胸で昇進していく、というのがストーリーの大筋。だがしかし、全自動卓を売るためのアイデアが小学校の自由研究よりひどい。第3話で係長、最終話で取締役になる、といういい加減さもひどい。
もっとひどいのは主人公の麻雀の腕だ。たとえばこんな感じ。

  1. 一筒一筒二筒二筒二筒二筒三筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒ドラ二筒  ロン九筒
    をオーラスでアガって「門前清一・一盃口・ドラ4の三倍満! 逆転だ!」と叫ぶ。ちなみにこのアガリも自力ではない。
  2. 対戦相手から「役満じゃないと逆転できないわよ」と指摘され、冷や汗。
  3. 味方の女性(この人は何故か主人公に惚れている)から
    「その手は一通も平和もつくから数え役満で逆転よ」と指摘され、大喜び。

…ポカーンとしか言いようがないくらいひどい。
しかしこの作品を堂々と成立させているのは、「主人公もそれ以外の登場人物も、みんなアホ」という特徴である。東大卒のライバルも、社長秘書のマドンナも、上司も、社長令嬢も、ライバル会社の女性社員も、とにかくアホとしか形容できない。みんなが主人公のイチモツに惚れ、みんなが更にアホな振舞いをするせいで主人公が出世する、という、何ともいいがたい世界がここに現出する。
原作の志村裕次は、昭和の麻雀マンガを代表する原作者の一人。麻雀に生きる無頼な男の話は得意だが、こういうコメディタッチは苦手だったのか、それともこの頃はまだ作風を固めてなかったのか。作画の宮本ひかるは、ひばり書房から出ているホラーマンガが有名だが、これと『麻雀地獄変』(桃園書房)という2作品が単行本としてある。
なお、併録の「海底牌の裸単騎」は、ストリッパーが主人公。「ストリッパー=裸になる=裸単騎が得意」という図式は、少なくとも30年前から存在していたことが確認できる。

*1:分からない人が多いと思うので注釈すると、昔「カキヌマ」という有名な自動卓メーカーがあったのだ