「m9」買った

m9 Vol.2 (晋遊舎ムック)

m9 Vol.2 (晋遊舎ムック)

田中太陽プロが「ハチワンダイバーのルーツは麻雀マンガにあり!!」という記事を書いていた。
まず前半は、ハチワン成功の理由が、アントニオ猪木が提唱した「環状線理論」で説明できるとし、後半では卓上ゲームマンガの基礎を築いたのは麻雀マンガである、という主張を掲げている。締めは、そろそろ麻雀マンガの逆襲が起こってほしい、という感じで。
総論として賛成できるし、共感できる。各論を言えば、『哲也』に対する評価が高すぎるとか、マンガ読者の年齢層の上昇のことに触れてほしかったとか、一言くらいはステルスモモじゃなくて『咲 -saki-』に触れてほしかったとか、でもステルスモモは可愛いっすよ触れてみたいっすよとか、色々ある*1
自分と田中は旧知の仲なので、彼が本当に言いたかったのは、最後の「麻雀マンガよ甦れ!」であることが分かる。したがって、その辺りで少し書いてみる。

天牌』でいいじゃない。

『咲』の環状線の越え方というのは、説明するまでもなく萌えである。可愛くてノーパンの女の子たちが、何の屈託もなく部活動としての麻雀に打ち込めば、軽く環八越えである。外環道くらいは行ってるだろう。
一方で『天牌』の越え方は何かと問われると難しい。連載は7年、単行本は本編が44巻、外伝が14巻+1と、『哲也』を越えて麻雀マンガ史上最長連載である。数字だけだと、十分麻雀ファン以外の読者をつかんでいるかに見える。
しかし『天牌』が、麻雀を知らない人に広く楽しまれているのかと問われれば、どうだろう、そんなでもないんじゃない、としか答えようがない。魅力的なキャラクターが多数登場して、それぞれに感情移入できるというのはプラスポイントだが、一つのツモ、一つの切りごとに状況が変わるような緻密な駆け引きを味わうのは、それなりの知識が必要になるはずだ。
だから自分は天牌が環八を越えているとは思わないが、奇跡に近い作品だとは思う。21世紀に入る前、あれほどのクオリティの麻雀マンガが毎週連載されることを予測した人は、ほとんどいなかっただろう。
隣の芝生は確かに青い、悔しいほどに。しかし人間に目が二つ付いていることが素晴らしいように、この世に天牌が存在することもまた素晴らしいのだ。

『あぶれもん』でいいじゃない。

まあ上のように書いてみたものの、天牌ハチワンを比べるのは適切じゃない。前者は長期連載だから、後者に比べるとどうしても展開がもっさりしていて、グイっと人を惹きつけるのに時間がかかる。44巻もあると、読み始めるのが躊躇される、という弱点もある。
そこで、ハチワンに対抗できる麻雀マンガ作品を探すと、すぐに思い浮かぶのは『あぶれもん』である。

あぶれもん 1―麻雀流浪記 (近代麻雀コミックス)

あぶれもん 1―麻雀流浪記 (近代麻雀コミックス)

ハチワンとあぶれもんの共通点は、

  • 登場人物たちの論理と倫理が狂ってる

という点に尽きる。主人公のみならず、登場人物全ての思考パターン、納得するシチュエーション、激怒するシーンが、どこか世間とは違っている。どちらも「馬鹿と天才紙一重」「何かを極めた人間は、その代償に何かが欠落している」という一般認識を下敷きにしていると見てよい。
ハチワンの場合は、そのズレが作品内で時に微笑ましく描かれるが、あぶれもんはオールガチである。詳しく書くと興を削ぐが、

  • 「強くなりてーよー」と○○を食べる。それを見て「奴は強くなるぜ」
  • 勝利した主人公が、敗者の爺さんに○○○○させる。
  • お腹の赤ん坊を○○○○する。

など、枚挙にいとまがない。ドン引きすることも多い。
にも関わらず、あぶれもんは傑作であるし、麻雀を知らなくても多分楽しめる。来賀友志が一貫して描き続けているのは、「麻雀強ければ運が強い、だから何かの道で一流の人間は麻雀が強い」という、言ってしまえば単純な理屈であり、その系譜は、恐らくこの作品から『てっぺん』を経て『天牌』に繋がっている。

サイバーパンクでリアル麻雀を逃げ場にすればいいじゃない。

ところで、あぶれもんとハチワンの違いを考える中で、一番重要なのは、

という点ではないかと思われる。
多くのビルトゥングス・ロマンにおいて、主人公は初め弱っちい。社会との接点が少なく、自分ひとりの思弁に沈みがちで、非力な彼(彼女)が、社会に揉まれて成長していく様を書くのが本義なのだから、それは当然である。
ただ、あぶれもんの主人公が、麻雀打ちの、闘う男たちの理屈を簡単に受け入れていくのに対し、ハチワンの主人公は、呈示される世界に対して腰が引け気味である。状況としてどうしようもない所まで追い込まれて、仕方なく、望んでいるような望んでいないような行動を取る、というのが、多分今日的なテーマなのだろう。『ナイトクレイバー竜一』を想起してもらってもよい。
もし、麻雀マンガが時代と寝て、今日的な意味での成功を望むのであれば、答えはこういう風になる。

  • サイバーパンク、それもネット麻雀の方がリアル麻雀より上位。リアルみたいな自分たちでルールを捻じ曲げられるようなしょうもない世界で麻雀をやるのは負け組。ネットの世界に溶け込めない主人公は、夜な夜なリアル脱衣麻雀に逃避する。

何となく思いつきで言ってみたが、その先は考えてないので終わる。

*1:ステルスモモのくだりは、一人チキンレースみたいな物なので無視してください